イチローの新記録達成に思うこと

富士のタイヤテストが終わった7月1日に69歳になって、家族に祝ってもらったけれど、なんか信じられないね。来年は70だってよ! 70歳になったらどんな楽しみ方があるんだろう?
(※1日生まれなので、次男なのに「一義」と名付けられた)

最近はイチロー(メジャーリーグ、マーリンズ外野手)の新記録(日米通算4257安打で米通算4256安打記録を更新)が話題になった。足が速いから打球を転がしたらヒットになるという、彼の持ち味を存分に出して作った世界記録だった。これは自分自身をきちんと管理して、努力に努力を重ねて自分と闘って作ったもの。メジャーの年俸がどうのこうのということではなく、本当に野球の頂点と言われるメジャーに挑戦したかった、いわゆる“野球バカ”なんだと思う(イチローも次男だが祖父の名前から「一朗」と命名)。

彼とはオリックス時代にインパルで仕立てたイチロー仕様のマーチを渡したり、GT-Rで走ったりしたし、僕のヘルメットと彼のバットを交換したこともある仲。一度、「バットはどうしてますか?」と聞かれたから、あぁゴルフの素振り用に使ってるよと冗談で答えたら、「え〜、そんな〜」と苦笑していたっけ。

彼には子どもはいないけど、もし男の子がいたら、絶対に将来野球をやるなんてやめとけって言っていると思う。野球でどれだけ自分を追い込んでいるかよく分かっているはずだからね。そこまで自分にプレッシャーを与えてまで野球をやることはないと。僕もレースではそうだった。プロでトップ争いをするためには、いい意味でレースは楽しくはやれないんだ。人の何倍も自分を追い込むからね。

彼にも参考書はなかったと思うよ。自分でひとつひとつページを増やしていったんだろう。それは教わるのではなく、見て盗んでね。僕だってレースで100何周しても1周だけコンマ何秒か負けただけで悔しいし、チクショーって思う。彼のような選手は何十年にひとり出てくるかどうかの選手だと思うけれど、天才というよりも努力家という印象。何か通じ合うものがある。

それから彼の新記録達成後の記者会見を見て思ったのは、オリックスにいた時代は温厚だと思ってた性格がずいぶん変わってきたということ。コンプレックスや人格の話までして、彼は二重人格なのかなとも思ったけれど、それまで溜めてたものを吐き出したような会見だった。僕が思うに彼はそんなに裕福な家庭に育った子どもじゃないんじゃないかな。裕福な家庭ではハングリーな精神は沸いて来ないと思うし、僕もそうだった。多分彼も何度も挫折していると思うよ。チクショーという気持ちを持っていたはず。絶対あいつには負けないぞってね。安田が「JPは速い」って言うけど、僕にしてみたらそれはふざけんじゃないってこと。昔、一緒に競った長谷見さんの方が少しでも速かったら、僕は絶対に彼より速く走ろうとしたからね。

だから、なりたくてもなかなか人格者になんてなれないよ。ただ努力家で人格者でトップに立つ人はいる。それは王貞治さん。彼は中国(中華民国)籍で少年時代も決して裕福な生活をしていない。しかし努力に努力を重ねて世界のホームラン王になった。国民栄誉賞も授与された。それでも決して偉そうにしない。僕も食事をするときに時々偶然一緒になることがあるけれど、常に言葉遣いがていねいで落ち着いていて、すべてが柔らかくて温かい。店を先に出ようとすると入口を開けてくれたりして、いや本当に真似ができない。さすが世界の王さんだと思うよ。

(※この続きは7月15日ごろに掲載予定です)

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