ステークホルダー・エンゲージメント

官民の連携で埼玉県を押し上げる
イノベーションを生む

モノづくりで挑む

(左より)埼玉県知事 上田清司氏、カルソニックカンセイ株式会社代表取締役 森谷弘史

※本対談は2017年4月に行われました。肩書き、その他情報は対談当時のものです。

埼玉県で事業を行う社会的意義
埼玉県で事業を行う社会的意義

埼玉県で事業を行う社会的意義

森谷 カルソニックカンセイは、大株主が変わり、世界の自動車業界を支えるイノベーションを生み出す独立系自動車部品のモノづくり企業として舵を切っていくことになりました。また、来年2018年で創業80周年、埼玉県に本社を移転して10年を迎えます。「第二の創業」として、改めて社会のために何をしていくかを考えていきたいと思っています。
以前より上田知事は、企業誘致をはじめ積極的な経済政策を推進されていますね。

知事 埼玉県は今、非常に勢いがあります。人口増加率は、沖縄県、東京都に次いで3位になりました。2014年の埼玉県の名目GDPは20兆9,144億円で、2003〜2013年までのGDPの増加額も、愛知県に次いで2位です。これは、企業誘致、先端産業育成、企業支援に力を入れてきた成果であると考えています。
埼玉県の予算は約1兆8,600億円、そのうち人件費・社会保障費に約半額、投資的経費に1,500億円、公共事業に800億円使っています。2005年から企業を誘致し、直近で投資総額が約1兆3,660億円になりました。1年あたりの投資額は、投資的経費と同じくらいです。県内の企業が事業税・法人税・固定資産税を支払い、従業員の方が消費税を支払い、その消費行動が付加価値を生むことを通して、埼玉県の経済に貢献していただいています。公共事業頼みではなく、民間企業が事業をしやすい環境をいかに作っていくかが、埼玉県にとっての命題だと思っています。
御社は埼玉県に本社を置き、グローバルで事業を展開していますが、地域との関係は、どのようにお考えでしょうか。

森谷 当社は、さいたま市に開発研究センター・本社、児玉町に最先端の電子部品工場、吉見町に生産技術センターと内装部品工場があります。モノづくりにおけるグローバルな本社機能はすべて埼玉県に置いています。県内在住の従業員も多く、当社の大きな活力になっています。CSR活動において最も力をいれているのは社会への貢献と環境です。当社は、世界15カ国に79の拠点がありますが、それぞれが地域社会と密接な関係をもっております。埼玉県で重要なステークホルダーである地域社会や行政と良好な関係を築き、世界の仲間達の模範例になっていこうと思っています。今後もより地域社会と連携していきたいと考えています。

知事 そうですね。官と民で協力して、双方がWIN-WINになる方法はたくさんあると考えています。「記念プレート付き植樹」の取り組みもその一例です。一定金額以上を彩の国みどりの基金へ寄付いただくと、個人名や団体名を記載した記念プレートをつけて植樹されます。
結婚や誕生日などの記念に喜ばれています。こうした取り組みにより、埼玉県内で税金を使わずに、みどりを増やすことが可能になるのです。他にも、民間活力の導入とアイデア次第で、税収が減ってもダイナミックなことができると考えています。そういったことを互いに探していければよいですね。

地域社会と共存共栄を目指す
地域社会と共存共栄を目指す

地域社会と共存共栄を目指す

知事 地域の社会課題の解決に向けてどのようにお考えでしょうか。

森谷 カルソニックカンセイグループが取り組むべき重要な社会課題として、環境が挙げられます。2011年からの中期経営計画で掲げた環境配慮型製品については、目標である10製品の創出ができました。県内拠点はISO14000を取得し、適切な環境マネジメントを行っています。今後も引き続き、事業を通して「クリーンな社会」づくりに貢献できるよう努めていきたいと考えています。
また、地域住民の皆さまは私達にとって重要なステークホルダーです。地域社会と共存共栄を目指し、各拠点での「地域清掃」の実施のほか、本社では「環境コミュニケーション」懇親会や「電気自動車のEV充電スタンドの無料開放」、「地下水膜ろ過システムの設置」も行っており、災害時などに地域住民の皆さまに飲料水をご提供できるように備えております。従業員にも県内のボランティア活動への参加を一層積極的に促していきたいですね。
知事がおっしゃる通り、民間活力の活用に力を入れている埼玉県だからこそ、県と企業、さらに地域コミュニティがWIN-WINになるアイデアを出し合って実行していけば、新たなビジネスチャンスも生まれますね。

地域社会と共存共栄を目指す
カルソニックカンセイへ託された期待
カルソニックカンセイへ託された期待
カルソニックカンセイへ託された期待

カルソニックカンセイへ
託された期待

森谷 埼玉県内の企業に期待することがあれば教えてください。

知事 社会科の勉強にもなるので、工場見学会を開催いただけると嬉しいです。どうしても自動車会社さんなどの最終消費製品を扱う企業の方が消費者になじみがありますが、その重要なパーツを作られているカルソニックカンセイさんに、もっとアピールをしていただきたい。

森谷 将来を担う子どもたちにモノづくりの楽しさを伝えたいですね。2012 年から、我々の従業員が小学校に訪問して、モノづくりの楽しさを伝える出前授業「やってみたいコト応援プロジェクト」を実施しています。昨年は、小学生とその保護者を対象にした工場見学も行いました。
次世代の育成とともに当社が力を入れているのが、ダイバーシティへの取り組みです。すべての人が活き活きと働ける社会の実現に向けて、当社では多様な人材の活用に取り組んでいます。
知事は、従業員の福利厚生や、子育て支援、ダイバーシティなどについてどのようにお考えでしょうか。

知事 県としても補助をしていますが、企業内保育でより従業員の定着を図っていただきたいと考えています。病院などでは、院内保育をすると看護師が定着しやすいようです。1 社では難しくても、複数企業が負担金を出し合い、共同運営するのも一つの手ですね。とはいえ、「旗振り役」といえる基幹になる企業がなければ、進みにくいかもしれないので、押しも押されもせぬリーディングカンパニーであるカルソニックカンセイさんに引っ張っていただけたらと考えています。

森谷 ありがとうございます。これからは人材を確保するのが難しい時代となるので、従業員に長く勤務してもらえる魅力的な企業となっていきたいと考えています。

知事 複数の企業が集まることで、子育てだけではなくて、新しいビジネスやイノベーションが生まれる可能性もありますしね。

さらなる官民連携強化に向けて
さらなる官民連携強化に向けて

さらなる官民連携強化に向けて

知事 埼玉県の企業として、県に期待することはありますか。

森谷 モノづくりでの連携を図りたいです。当社のモノづくり技術の伝播や交流を推進することで、地元経済の活性化に繋げたいと考えています。

知事 現在、県では、確固たる技術力を持った563 工場を「彩の国工場」に指定しています。御社の工場では、児玉工場に続き、2016 年に吉見工場も指定させていただきました。もともと川口は鋳物や金属の工場があったので、それから派生して、航空機や自動車の部品などを供給している会社もたくさんあります。彩の国工場指定の中で振興協会などを作り、交流会や見学会をしても良いのではないでしょうか。

森谷 GDP が成長しているというお話がありましたね。企業同士が連携することで、埼玉県内に新たなビジネスチャンスが生まれることを期待しています。県内にはモノづくりの企業も集積していますね。

知事 製造品出荷額等の内訳は、輸送用機器が17.8%、食料品が12.9%です。

森谷 当社は、自動車部品の企業ですが、食品会社などと意見交換をしたり、工場見学をさせていただいたりするとよい刺激になるでしょう。自動車部品を作るにあたり、「安全第一」で進めていますし、電子工場や樹脂工場は異物混入管理など、衛生管理において共通した取り組みで連携できるかもしれません。他社との連携で、そうした学びを深めていきたいと思います。

知事 埼玉県は、医薬品や化粧品の生産額が全国トップクラスです。医薬品は安全管理・品質管理について非常に厳格です。他業種との交流は双方に良い刺激がありそうですね。県内には多様な業種がバランス良く存在し、成長を続けています。首都圏へのアクセスが良いなど、企業活動をしていく条件が整っているからでしょう。企業への支援策も功を奏しています。

森谷 これを別の言葉に言い換えると当社が理想とする「持続的成長」です。不況になっても、医薬品は必要ですし、お化粧はしますからね。モノづくりでの連携は、次代を担うモノづくり人材の育成にも繋がると考えています。産業全体として、若者の技術離れに楔を打つべく、中学校や工業高校、高等技術専門学校との連携を強化していきたいと考えております。

さらなる官民連携強化に向けて
官民共同で人材活用モデルを構築
みんな想いがある、中途半端では終わりたくない
官民共同で人材活用モデルを構築

官民共同で人材活用モデルを構築

知事 若者に向けて海外留学を応援するための「埼玉県グローバル人材活躍基金」を設置し、産学官でグローバル人材を育成しています。新「埼玉発世界行」冠奨学金は、寄付をいただいた企業や個人の名称などを冠とすることにしました。早速カルソニックカンセイさんからご寄付いただき、ありがとうございます。留学から戻ってきた学生が、埼玉県内の企業に就職してもらえると嬉しいですね。

森谷 グローバルな視野を持ち、世界で活躍できる人材の、埼玉県内からの輩出に貢献したいとの思いから、「カルソニックカンセイ未来奨学金」として協力させていただくこととしました。
当社では、「埼玉県海外インターンシップ促進事業」に2011年度から参加しています。毎年、県内の学生が、当社の海外拠点で2~3週間のインターンシップに参加いただいています。
インターンシップについては、工業高校や高等専門学校生も受け入れています。最終的に当社で働いてくれることがベストですが、そうでなくてもモノづくりを知ってほしいと思っています。当社には、No.1、オンリーワンの技術がありますが、これを伝播させるには、—民間企業では限界があります。モノづくりの楽しさを実感できる学生との技術交流会やインターンシップの企画などを、これからも行政と連携しながら進めていけたらと考えています。

知事 あとは、高齢者を戦力にしたり、高齢者の需要を喚起する商品を開発したりすることにも力を入れていきたいですね。内閣府のデータによると、高度経済成長を経験した団塊世代は他の世代より消費意欲が高いとのことです。人口が1億人を超えた50年前は、65歳以上の方の割合が7%でした。30年後に人口が1億人を割ると予測されており、2060年の65歳以上の割合は40%、4,000万人にのぼるそうです。生産年齢人口より、高齢者の人数が多くなるかもしれません。健康長寿年齢を延ばして、意欲的な65歳以上の方が働き続けられるようなシステムが必要だと考えています。

森谷 高齢社会をリスクではなく、ビジネスチャンスととらえるわけですね。

知事 1995年に70%を占めていた生産年齢人口は、2040年に54%になり、主要国の中で最小になっています。しかし、74歳まで働くこととすると、2040年には生産年齢人口が66%で世界トップになっているのです。その後はアメリカと1位を争う状態。そう考えると、74歳まで元気に働けるような環境作りをしないといけません。衰える筋力をカバーする経験の活用やAIや機器の導入により、年齢に関係なく働ける方法を見出していけると良いでしょう。

森谷 その通りですね。さらには、女性の活躍も欠かせません。今は弊社工場でも女性が増えてきていますし、女性の工場長を育てたいと思っています。
多様な人材が働ける環境を作るために、自動化やIoTなどの技術を積極的に取り入れ、誰もがモノづくりに携われるような方法を考えなくてはなりません。

知事 日本が世界で戦っていくためには、そうした工夫が必要なのではないでしょうか。消費も促進されますし、みなさんがハッピーになりますよね。

森谷 成長を遂げるための視点ですね。

知事 民と官で協力して埼玉県を一層盛り上げていきましょう。

森谷 お忙しいと思いますが、ぜひ本社にもいらっしゃってください。本日はありがございました。

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